実践研究の成果の一部が論文になりました
研究論文が掲載されました。
「地域の環境ものさし」による生物多様性保全活動の推進
Advancement of Biodiversity Conservation Activities with Detecting “Local Environmental Icons”
淺野悟史・脇田健一・西前 出・石田卓也・奥田 昇(2018)農村計画学会誌 Vol. 37, No. 2, 2018年9 月
生物多様性保全は各地で浸透・拡大していますが,その「効果」は非常に認識しにくいのではないでしょうか。研究者にとっても「生物多様性」の高さを測るには一苦労なのです。保全活動の主体となる方にとって分かりやすい指標はないでしょうか。認識しにくい「生物多様性」と「保全活動」の間をとりもってくれるものはないでしょうか。それを探す試みを行った実践報告が本論文となります。
わかりやすい指標を「地域の環境ものさし」と名づけ,科学的な裏づけだけでなく,保全活動の地域特性にあったものを選びつつ,保全活動によるものさしの変化を受けて保全活動が促進されるようなものを探しました。この対象地域のものさしのひとつは,これまで見過ごされてきたニホンアカガエルの卵塊でした。
生物の研究者はたくさんの生物について知識をもっています。希少性の高いもの,絶滅が危惧されるものも,その道の専門家なら容易に見つけ出すことができるでしょう。また,ある保全活動によって希少性の高い生物が守られることは生物学的にも公益的にも非常に大きな意味があることは間違いありません。しかし,保全活動の主体にとっての意味はどうでしょうか。希少性が高いものを保全することと保全活動を楽しみながら続けていくモチベーションは必ずしもイコールではないのではないでしょうか。
保全のためのコストが大きい場合,希少性の高い種を守ることは地域の負担になったりしないでしょうか。外部からの圧力が大きければ大きいほど,保全活動へのモチベーションは下がりやがて対象種への憎悪すらも引き起こしかねません。実際に,絶滅危惧種の保護の現場ではこのような声を頻繁に耳にします。
「地域の環境ものさし」は希少性にこだわりません。その地域の活動とマッチしていれば,そのものさしを用いることで保全活動を続けていくモチベーションが高まればいいのです。そして,私たちが研究を続けてきた地域では約3年間の間にそういった変化がみられるようになったのです。こういった研究スタイルを実践研究と呼んでいます。研究者が地域に入り込んで時間をかけて行うスタイルです。論文にしてしまうと実践における細かなやりとりなどは削らなければなりません。いずれフィールドの泥臭い話を論文とは別の形で発表できればと思います。