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Unmanned Aerial Vehicle (UAV, Drone) for Field Studies 

UAVは2010年代後半から様々な分野で応用されてきました。最初はカメラが搭載されていなかったUAVにデジタルカメラを搭載し,インターバル撮影画像から3次元モデル作成を行っていた研究(井上ほか2014)からわずか5年の間に,カメラの搭載されたUAVのラインナップも充実し,正確な位置情報をつけた写真を得る,「測量UAV」とも呼ぶべき機体も発表されました。

 そんなUAVを「人間が使うことで維持されてきた環境の変化と再生」の研究にどう応用しているかをご紹介します。

井上 公・内山庄一郎・鈴木比奈子(2014)自然災害調査のためのマルチコプター空撮技術.,防災科学研究所研究報告,81,61-98.

SfM写真測量技術を植物体の形態変化量の推定に応用

SfM

2014年に初めてUAV研究に触れたのは前出の防災科研の報告書でした。UAVの衝撃はもちろん大きかったのですが,もうひとつ大きな衝撃を受けたのがSfM-MVS (Structure from Motion-Multi View Stereo)による写真測量技術でした。簡単にいえば複数の写真から立体物を3次元化することができるソフトウェアのパッケージです。UAVにカメラがなかった頃から今でも変わらず,この分野で活躍している技術です。

​ この技術に触れた私は図1のように考えました。そして研究費も限られていたことからいきなりUAVを手に入れるのではなく,Photoscan (Agisoft社)を購入し,手元にあったNikonのデジタルカメラAW100を使ってできることを考えました。

​ その頃の私の関心はシカによる林床植物への食害でした。農産物の被害はよく把握されており,経済価値への換算も行われていましたが,森林,特に二次林や里山における被害はよくわかっていませんでした。当時,私は対馬のシイタケ原木林の持続可能な利用を研究しており,伐採後の広葉樹萌芽枝へのシカ食害は深刻であるにもかかわらず,大きな問題として認識されていませんでした(図2:獣害対策を施した伐採跡地)。面的な被害量の把握はUAV写真測量で行うとして,まずは写真測量によって植物の被害を定量化,少なくとも体積で近似できるのかどうか,をテストする必要があります。そこで考案したのがデジカメ写真測量だったのです。

 季節は秋から冬に向かう時期だったので対馬の調査地とおなじアベマキやコナラといった落葉性のブナ科を材料にするのはあきらめ,常緑のアラカシを選択しました。大学の近所の山にいくと,伐採から半年たったという斜面でアラカシの萌芽株を発見しました。まずはこの株の写真を,重なりをもって50枚ほど撮影しました。その際,伐採株と地面の接する1点(斜面下側)を原点とし萌芽枝頂点をもう1か所を巻き尺ではかり相対座標としました。体積を計算するためにはDSM(Digital Surface Model;表面のみの標高値)を正確に得る必要があり,そのためには座標値が必要でした。しかし正確な位置情報を測ることは現在でも非常に難しく特に単一の伐採株のような小さな対象物にとっては位置情報の誤差は致命的でした。そこで絶対座標をあきらめ相対座標を与えることにしました。図1の測量の要素が揃い,後はソフト上で3次元化をするだけです。

 研究室に戻り解析を行った結果,ごく短時間の調査と解析によって,伐採株の3次元モデルが完成しました。そして原点を含む水平面より上部の立体物の体積も算出することができました。あとはこの精度を検証する作業が残っています。しかし,山の伐採株の萌芽枝は勝手に切るわけにもいかず,また斜面は原点を含む水平面からの体積に切り株そのものや余計な地面を含んでいます。どうしようか考えていたところ,大学構内のアラカシの生垣が剪定されている場にでくわしました。関西ではアラカシなどのブナ科植物が土用の頃によく伸びます。これを土用芽などと呼びますが,生垣からヒュンヒュン伸びた土用芽を業者の方が剪定し生垣を整えておられました。事情を説明し剪定されたアラカシ土用芽を10本程度もらい,植木鉢に挿して疑似伐採萌芽株としました。鉢の縁に板を貼り,ここを水平面とすることで株などを含まない,萌芽枝のみの体積を算出しようと試みました。これをDSM算出体積と呼ぶことにしました。DSM算出体積は誤差を含んでいると思われます。誤差率のようなものがわかればDSM体積に誤差率をかけることで真の体積を推定することができるはずです。そのためには実験において真の体積を算出する必要がありました。考えた末に,断面積が一定の柱状の容器に水を入れ,萌芽枝を完全に沈めたときの水面高の変化で換算することを思いつき,こうして得た体積を水量換算体積と呼ぶことにしました。容器はいくつか試した結果,2Lのメスシリンダーが,目盛りもついている点で使いやすいことが分かりました。

 準備を整え,実験開始です。まずは萌芽枝を挿した「初期状態」を撮影し相対座標を測ります。続いて,萌芽枝を少し剪定し,同様に撮影・相対座標の計測を行いました。剪定した枝は乾燥しないようにすぐに水を入れたメスシリンダーに沈め水量換算体積を測ります。これを繰り返し,すべての枝のパーツをメスシリンダーに入れ終わるまで15分程度で行い,自然乾燥による体積変化を防ぎました。そして各段階の伐採株の3次元化を行い水量換算体積と比較をしました。

 結果,初期状態の大きく広がった萌芽枝の形状が災いしたのか,初期状態のみ大きく推定してしまうことがわかりました。これは形状も関係していますが,そもそもの原因はDSMが2.5次元であることであり,伐採株を柱体の集合として表現しているところにあります。点群が3次元データを抱えているのに対し,出力されるDSMが2.5次元というのは勿体ない限りです(2014年時点)。これまで植物体の変化量といえば絶乾重量による比較が主でしたが,これだと植物体の一部を破壊してしまうため同じ個体の変化が追いにくいほか,希少植物に適用しにくいという問題がありました。写真測量技術が応用できれば非破壊的に把握できるためこうした問題を解決できる可能性があります。

◆初出文献

​淺野悟史・西前 出(2015)SfM-MVSシステムによるDSM体積を用いた植物体変化量の推定における課題,環境情報科学,学術研究論文集29,71-76.

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図1 UAV写真測量技術の要素

シイタケ原木伐採跡地(対馬)

​図2 獣害対策を施したシイタケ原木林伐採跡地

測位精度1cm !? RTKシステムの活用

RTK

図1で示したとおり,UAV-SfM写真測量には正確な位置情報が必要であるという課題がありました。前項で紹介した植物体の変化を推定する実験では対象物が小さいため相対座標の利用も可能でしたが,地形など広い範囲を3次元化するには不向きです。既存の測位機器のハンディGPSなどは大きな誤差を含む単独測位という技術を使っています。ちなみに,GPSというのはアメリカが打ち上げた測位衛星の名称であり,実際にはハンディGPSも他国の衛星を含め10個程度の衛星信号を受信することで自身の位置を推定します。そのため,複数の衛星信号を利用している測位システムは正式にはGNSS(Global Navigation Satellite System)という名称となります。

​ 単独測位では大きな誤差を含むと書きましたが,どの程度の誤差なのでしょうか。受信する衛星の数にもよりますが,数メートルから数十メートルともいわれています。これではUAVを30m上空まで上げて撮影した場合の解像度である数cmを大きく上回ってしまい,せっかくのUAV測量の強みがいかせません。そこで,より精度の高い測位方法として搬送波測位があります。これは,基準局(固定点)で受信し位置情報を推定した際の誤差(衛星信号に由来する)を,移動局(測位点)の動きから引き算することで,衛星信号による誤差を除いた移動局の動きを再現する技術です。これをリアルタイムに行う方法を特にReal-Time Kinematic,RTKと呼んでいます。実際に運用するには基準局と移動局の距離に制限があり,リアルタイムで行うことは難しいため,基準局のデータと移動局のデータを別々にとっておいて後で処理を行うPost Processing Kinematicが行われます。

 搬送波測位を行える機器も最近は小型化かつ低価格化が進んでおり,フィールド研究にも利用できるようになりました。u-bolx社の受信端子をパッケージ化したものが使いやすく(といってもかなり手探り),一例を示しますと,EMLID社のREACH RTKは300USD(2019年現在入手不可),トラ技RTKスターターキットは20,000円(移動局),25,000円(基準局)となっています。月刊誌「トランジスタ技術」では2018年1月号と2019年2月号でGNSSが特集されており,この項もこれらの文献を参照しています。

 RTKの精度,といった場合に何を指しているのか注意を要しますが,データのまとまり具合(ばらつきの小ささ=precision),という意味では精度はかなり高く,標準偏差をとってみると最小1cm程度となります。ただし,そのときの座標の平均値や中央値が本当に正しい値なのかは検証する必要があります。この「真値」に対する確からしさを正確度(accuracy)といいます。三角点など位置情報が分かっている点で測位すると正確度の判定ができます。しかし,困ったことにこの三角点の座標も誤差を含んでいますし,測量方法が異なる場合にどちらが正しいのか,という疑問もでてきます。最近では国土地理院も徐々に三角点をGNSSで測量し直しているらしく,もし近所に測量し直された三角点があれば自分のRTK測位の正確度を検証してみてもよいかもしれません。

◆参考文献

トランジスタ技術2018年1月号,CQ出版社.

​トランジスタ技術2019年2月号,CQ出版社.

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図1 UAV写真測量技術の要素

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