top of page
日本の河川(アマゴのいる沢).jpg

ホタルのすまう水路へ(甲賀市)

 滋賀県甲賀市の農村集落では,次なる環境ものさしとして「ホタル」が選ばれた。あえて選ばれたという書き方をしているのは意味がある。2016年2月からニホンアカガエルの卵隗調査と,オマケのように現れるカスミサンショウウオの卵隗調査を行ってきた。この調査は環境保全組織に属する農家さんと一緒に水田をまわりながら行った。その結果は農地地図に落とし込み,どこにカエルやサンショウウオがいたかを「見える化」することで共有を図った。これが思わぬ効果をもたらした。7月に訪れた際,見せられたのは件の農地地図。しかし何かが違う。新たに黄色い○シールがあちこちに貼られているのだ。これはホタルのいた水田らしい。自ら調査を行い,それを見える化しておられたのである。

 アカガエルやカスミサンショウウオの卵隗は主に早春に現れる。ちょうどその時期が農閑期と合致していて農家さんの協力を得られやすかった(もっとも,これは結果論である)。裏返せば,4月~6月のような農繁期にはものさしを見つけることが難しいということではないのか。そのように考えていた。「ホタルは夜8時頃によく飛ぶ」とは調査をされたひとりの言葉。そう,ホタルが飛ぶのは夜。「少し遅くまで作業をして辺りが暗くなると飛び始める。」「晩御飯を食べたあとの夕涼みに田んぼにいくと飛んでいる。」「軽トラのウインカーをつけると集まってくる。」そんな言葉が次々に飛び出す。農繁期のものさしを想像できなかったのは私自身が農作業をしていないからだろうか。

 そうして農家さんによって選ばれたホタルであるが,この地区のどこに生息しているのだろうか。12月,彼らがマッピングした水田を訪れた。まずはヘイケボタルが見られたという谷筋。流れの緩やかな水路や小川があれば,と思い排水路などのよどみをタモ網で掬ってみたがホタルの幼虫は入らない。残された選択肢として考えられるのは水田の内部に作られた「ひよせ」だ。試しにひよせに網を入れるとメダカ(ミナミメダカ)が何匹も入ってくる。稚魚サイズも混じるのでここで繁殖しているらしい。メダカが繁殖していることからも,この水路は年中,水がはってあることが想像できる。ヘイケボタルの幼虫もこのどこかにいるのかもしれない。

田んぼでとれたミナミメダカ

 次に訪れたのはゲンジボタルが見られたという谷筋である。ちなみにホタルの同定は正しいか,と心配されるかもしれないが,7月の時点で写真を見せていただいているので,この地区にゲンジもヘイケも生息していることは確認できている。農家さんらも飛んでいるのを見ると大きさや発光の間隔で2種類いることに気づいたという。さて,通常,ゲンジボタルは河川に生息するのだが,この地区の河川の底質は粘土が積もりつもっているのでエサとなるカワニナの棲める環境ではない。考えられるのは水田の間をめぐる排水路である。まさか,とは思いながらも,組み立て式水路(いわゆるコンクリート3面貼り水路)にタモ網を入れてみた。入ったのは泥ではなく,砂利とシジミの仲間,そしてカワニナである。ゲンジボタルがいるとすればここに違いない。排水路の底面には局所的に砂利がうすく積もっている。そうした1箇所を掬い取ると丸まった幼虫が入った。排水路に生息するゲンジボタルの幼虫が確認されたのである。ただし,楽観視できる状況ではない。周囲をみたところ,ゲンジボタルが生息できる条件を備えた水路はこの1本,しかも一部分ではないかと考えられる。水路の構造を大きく変えることなしに,安定した生息環境を整えるにはどうすればよいか,困難な課題を前に,農家さんらの目は輝いている。

(続く)

水田の排水路で採れたゲンジボタルの幼虫

​最近の成果
最新記事
アーカイブ
タグから検索
ソーシャルメディア
  • Facebook Basic Square
  • Twitter Basic Square
  • Google+ Basic Square
bottom of page